事業における知的財産権の役割

知的財産権は、事業にとって重要な存在である一方で、とっつきにくい内容だと思います。この記事では、事業における知的財産権の役割について概要を説明します。細かい話はまた別の機会にしたいと思います。

1.主な知的財産権の種類

知的財産権というと、細かいところまで含めると多岐に渡りますが、理解のしやすさを踏まえ、主要なものを挙げると、著作権、商標権、特許権(実用新案権)、意匠権が挙げられます。

1-1著作権

知的財産権の中でも著作権は一番親しみのある権利だと思います。昭和は違法コピーが平然と行われている時代でしたが(投稿者の主観^^;)、現在はコンプライアンスが重視され、当然そのようなことは許されません。これは単に社会の意識の変化だけでなく、アナログデータと比較してデジタルデータは容易に完全コピーが作れてしまうため、技術の変化とともに規制も厳しくなっている側面もあります。
著作物の具体例として、著作権法第10条第1項には、(1)小説、脚本、論文、講演そのほかの言語の著作物、(2)音楽の著作物、(3)舞踊または無言劇の著作物、(4)絵画、版画、彫刻そのほかの美術の著作物、(5)建築の著作物、(6)地図または学術的な図面、図表、模型そのほかの図形の著作物、(7)写真の著作物、(8)映画の著作物、(9)プログラムの著作物が規定されています。
著作物は、著作権法第2条第1項第1号において、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されているように、芸術関係の創作物は著作権法において保護されるとイメージしてよいと思います。若干の例外として、建築図面が含まれる図形の著作物、プログラムの著作物は、工業的側面があるように思います。

1-2商標権

知的財産権の中には、「商標権」という権利があります。いわゆるトレードマークであり、商品やサービスに同じトレードマークを付すことで、ブランドを築くために必要な権利です。商標権は、標章という識別符号的な要素(商標法2条1項柱書では標章の定義として、「…人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの…」とされています)と、商品又は役務(サービス)の組合せで登録されます。例えば、「ブランドX-香水類」、「ブランドX-かばん類」のような感じです。
事業を行う上で、商標権はほぼ必須の権利といえますので、権利化を考えるとともに、第三者の権利を侵害していないか注意が必要です。(権利化に要する費用も高くなく、事業をする上で必ず検討すべきと思います。)

1-3特許権(実用新案権)

特許権は、発明を保護対象としており、特許法2条1項において、「発明」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。なお、「実用新案」は考案を保護対象としており、実用新案法2条1項において、「考案」とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されています。もうこれだけで難解ですが、工業製品を作る上で多くのものは特許権の保護対象となり得ることに留意していただくとよいと思います。なお、難しいことは省略しますが、実用新案権は権利としては弱いため、実務上は特許権を取得することがほとんどです。
例えばある紙製品があり、それに特殊な機能(防水機能)があったとしましょう。この防水機能が薬剤を塗布することにより実現されていれば、化学薬品の組合せによって防水機能を有する薬剤が生成され、それを塗布することにより実現されるので、自然法則を利用している発明に該当します。また、それが密閉構造により実現されていれば、その構造を実現する過程(圧力をかけるとか)や構造自体(製品自体の重みなど)による自然法則が利用された結果その製品を実現することになりますので、やはり発明に該当します。
コンピュータプログラムは一般的には単なる計算処理の組合せですので自然法則を利用する要素がないのですが、コンピュータのハードウェアは電子回路の集まりであり、自然法則(電子の動きなど)を利用したものですので、ハードウェア一体として動作することを根拠に、特許権の保護対象となり得ます。

1-4意匠権

意匠権(「いしょうけん」と読みます)も知的財産権の一つです。意匠法第2条第1項では、「意匠」の定義として、「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であつて、視覚を通じて美感を起こさせるもの」とされています(※読みやすいよう括弧書を省略しているためやや不正確な表現ですが)。イメージとしては、工業製品の形状等が保護されるというイメージです。典型的には、食器や家具などですが、形のある工業製品であれば多くのものが対象になります。また、コンピュータ内のアイコンなども対象となります。なお、本来は、「美感を起こさせるもの」としてデザイン性のある工業製品を保護するための権利ですが、ある規格のような形状を意匠権として登録しているケースも見られます。製品の形状に新規性がある場合には一度検討してみるとよいと思います。

2.事業を行う際に気をつけること

2-1他人(第三者)の権利を侵害しないこと

他人(第三者)の知的財産権を侵害してしまうと、「警告書」というようなタイトルで内容証明郵便が送付され、すぐに製品の販売の停止を行うとともに金●円の損害賠償金を支払え、といった内容が通知されることがあります。知的財産権の侵害をしてしまうと、事業に多大な影響を与えかねないため、注意が必要です。
著作権は相対的権利と言われており、他人の著作物に依拠せず、別個独立に創作した場合には、創作者に権利が認められます。したがって、創作者が他人の著作物を真似していないと誓える限り、権利侵害を気にする必要性は低いです。
一方で、産業財産権と呼ばれる特許権、実用新案権、意匠権、商標権は独占排他的権利であり、一番最初に権利を取得しようと出願した者に独占的権利が与えられます。Aに遅れてBがたまたま同じものを創作した場合、最初に創作したのがAだとしても、Bが最初に権利化を試みて登録された場合、Bに独占権が付与される結果、Aはその権利の利用ができなくなるのが原則です(厳密には、Aが救済されるケースもゼロではありませんが)。したがって、何らか新規性、進歩性のある創作を行い、これを事業に利用する場合には、権利化を検討することが望ましいです。なお、産業財産権は、独占的権利が付与される代わりに誰でも閲覧できるよう、特許庁のデータベースJ-platpatから検索が可能です。事業を行う際には、自ら提供する製品、サービスが第三者の権利を侵害しないか注意して(場合によっては弁理士に依頼して侵害調査をした上で)製造、販売に踏み切る必要があります。

2-2積極的に権利を取得し独占排他的権利を獲得すること

世の中にいい製品を送り出しても、メディアを通して人気が高まれば、すぐに真似されてしまいます。真似されてしまえば、いい製品を作り出した事業者が販売できた製品のシェアをあっという間に他の事業者に奪われてしまいます。したがって、事業を行う上では、常にどのように参入障壁を構築し、独占排他的に販売するか、というところを意識することが重要です。
真似されにくい製品を作ることも必要ですが、ブランド戦略として商標権を取得した上で製品やサービスの提供を開始すること、特許権や意匠権が取得可能か検討した上で、可能な場合には出願を行った上で製品やサービスの提供を行うことが重要です。

3.まとめ

知的財産権についてざっくりと概要を解説しましたが、事業を行う上では、知的財産権は必ず意識する必要のあるものです。
事業を行う上では、どのような形であれ、製品やサービスに名称が付され、ブランドが付されていることがほとんどですので、第三者の権利を侵害していないか確認するとともに、自ら権利を取得した上で販売を開始することが必要です。また、製造業など製品を作り出す業種においては、特許権・意匠権の獲得が可能か常に意識することが重要です。